遺伝学者の主張

 私たちの多くは、人間はサルから偶然に進化したと考えているかもしれません。でも専門家の中にも神のような方「サムシング・グレート(何か偉大な方)」が人間を創ったのだ、と考えている方がおられます。

 以下は筑波大学名誉教授 村上和雄先生のご意見です。先生はキリスト教信仰をもってはおられないと思います。(産経新聞2002年4月7日正論から全文)

題「サムシング・グレート」の不思議

<人間業ではない遺伝子の働き>

 ヒトゲノムの遺伝子暗号の全解読が、20世紀の末にほぼ完了した。暗号解読技術の長足の進歩に、IT技術が結びついた素晴らしい結果である。

 20年以上、私は遺伝子研究の現場にいる。1983年に、ヒトの高血圧発症に深く関わる酵素レニンの、遺伝子暗号解読に幸運にも成功した。その時は、ヒトゲノムの遺伝子暗号の全解読などは、夢のまた夢であった。

 遺伝子は、世代を超えて情報を伝えるだけでなく、今、すべての細胞の中で、一刻の休みもなく見事に働いている。この働きは、私どもの意思や力だけでは到底不可能であり、人間業ではない。

 この偉大な働きを、私は10年以上前から「サムシング・グレート」と呼んでいる。私が神や仏と呼ばずに「サムシング・グレート」と呼ぶのは、神や仏もあるものかと思っている人々でも、神業としか言えない「サムシング・グレート」の働きによって、生かされているからである。

 生きているということは、普通考えているよりもはるかに驚異的なことだ。例えば、私どもの分野では、大腸菌は大活躍している。大腸菌のおかげで、ノーベル賞学者が何人出たかわからない。これを使って、何千人もの博士が生まれた。

<大腸菌一つ元から創れない>

しかし、今、世界の学者の全知識を結集しても、世界の富を集めて研究しても、大腸菌一つを元からつくることはできない。コピーなら、いくらでも可能である。現代の科学では、ヒトのインシュリンを大腸菌でつくることは可能だが、元の材料からは創れない。

 なぜ創れないのだろうか。それは、大腸菌が生きている基本的な仕組みについて、現代の生命科学は、まだ手も足も出ないからである。

 このことを、学者はあまり言わない。言うと、その人の値打ちにかかわるから。「あれだけ頑張っていても、大腸菌の命すらわからないのか」と言われ、学者のプライドが傷つけられるのを恐れているのであろう。

 最新科学から見て、たとえ細胞一個でも「生きている」ということはすごいことである。ましてや人間が生きていることはただ事ではない。

 というのは、一個でもすごいその細胞が、何十兆も集まって、私たちの身体ができているからである。大人の細胞は平均で60兆個で、この数は、地球人口の一万倍にあたる。膨大な数の、肉眼では見えない小さな生命が、一人の体内に寄り集まっている。

 一つ一つの細胞にはすべて命がある。この集合体毎日、喧嘩もせずに見事に生きているということは、現代の科学から見て奇跡的なことだと言える。それに比べ人間は、地球上に60億人位しかいないのに、有史以来いつも何処かで戦争をしている。たとえ戦争をしなくても、喧嘩をしたり、いじめ合ったりしている。なぜ細胞は、その一万倍もの数が集まっているのに、争いもせず見事に働いているのか。細胞は自分自身を生かしながら、臓器のために働き、臓器は個体のために働いているのである。見事に助け合っているのである。

<誰が書いた「生命の設計図>

 このようなことがデタラメにできるわけがない。これだけ精巧な生命の設計図を、いったい誰が、どのようにして書いたのか。人間業をはるかに超えていて、まさに奇跡と言わざるを得ない。この大自然の偉大な力「サムシング・グレート」によって、私たちは生かされている。

 さらに驚くべきことは、遺伝子の構造と原理は、すべての生物に共通している。現在、地球上には二千万種以上の生物がいるといわれているが、カビなどの微生物から、人間まで、生きとし生けるものは、すべて同じ原理である。

ということは、あらゆる生物が同じ起源を持つことを示しているように考えられる。興味深いことには、原理は同じなのに、同じ種の中でもその組み合わせによって、二つと同じものがない。

 多くの生き物をはじめ、太陽のエネルギー、水、空気、地球などのお陰で、私たちは生かされている。自分の力だけで生きている人など、誰一人いない。科学技術に偏り、弱肉強食、優勝劣敗の考え方だけでは、やがて滅びるに違いない。

 これからの時代は、いのちの親である「サムシング・グレート」に感謝して生きるという考えが、世界中で必要になってくるであろう。(むらかみ かずお)

 

2002年4月7日産経新聞「サムシング・グレート」の不思議、全文。

 

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